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東京高等裁判所 昭和34年(ラ)389号 決定 1959年10月08日

抗告人 佐野勝弥

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一、本件抗告の趣旨及び理由とするところは、末尾記載のとおり。

二、これについて、当裁判所は、次のとおり判断する。

(一)  まず、民事訴訟法第六百六十二条ノ二第一項によれば、裁判所が必要ありと認めるときは、職権をもつて本款(民事訴訟法第六編、第二章、第二節不動産ニ対スル強制執行、第二款強制競売)に掲げた売却条件を変更することができる、旨規定されており、同法第六百六十四条の、競買人が保証として競買価額十分の一に当る金額を現金又は有価証券をもつて直ちに執行吏に預けるのでなければその競買を許さない、との規定は、民事訴訟法の前記の款に定められた、不動産の強制競売における売却条件にほかならないから、裁判所は前者の規定により後者の規定による売却条件を変更して、いわゆる特別売却条件を定めることができることは、当然であるといわなくてはならない。抗告人は、前者にいわゆる売却条件とは、競売そのものの成立又はその効果に関するもののみを指称し、後者の規定はこれに該当しない、と主張するもののようであるが、競買人が一定額の保証を提供するのでなくては、その競買を許さない、との定めは、競売そのものの成立又は効果に関しないものとは、とうてい言うことができないので、抗告人の右主張は、それ自体理由のないことが明らかである。

(二)  次に、抗告人は、本件競売裁判所が、競売不動産に対する担保権者または執行力ある正本による債権者以外の者についてのみ、右にいわゆる特別売却条件を定めたことは、憲法第十四条に明定する、法の下の平等を害し、違憲の措置であると攻撃するが、本件競売裁判所の右の措置たるや、競落人が競落代金を支払わず、再競売の必要を生ずることの多い弊害にかんがみ(本件の経過をみるも、しかり。)、競買人の提供すべき保証の額を高くするか、前記担保権者または執行力ある正本による債権者のごときものは、結局当該競売不動産の売得金から配当を受けるべき権利があり、それだけ競落代金支払についての確実性のあるものであるから、これらのものについては前記のような趣旨に出でた特別売却条件を定める必要がない、との一般的考慮にもとづくものであつて、特定の者に対し特別の利益又は不利益を与える趣旨を包含するものではないことが明らかであるので、これをもつて憲法第十四条に違反し、無効の決定であると解することは、相当でない。しかも、本件記録によれば、抗告人は本件競売手続における債務者兼競売不動産の所有者であることが明らかであつて、もとより右不動産の競買には関係のないものであるから前記のごとき特別売却条件の定めの有無を理由として、本件競落許可決定の取消を求めるにつき、法律上の利益のあるものと言うこともできない。

その他記録を調査しても、本件競落許可決定には何らの違法の点が見出せないので本件抗告はその理由がないものと認めて、主文のとおり決定する。

(裁判官 内田護文 多田貞治 入山実)

抗告の趣旨

原決定を取消し、さらに相当の御裁判を求めます。

抗告の理由

一、およそ、不動産競売手続において、民事訴訟法にいわゆる売却条件とは、その不動産を売却してこれを競落人に移転するについての条件、すなわち、競売そのものの成立又はその効果に関するものを指称し、競売の成立若しくはその効力に関係のない競売手続上のものはこれを包含しないものと解するを相当とする。

しかるに、原裁判所は、民事訴訟法第六百六十二条ノ二に基き、職権による売却条件の変更として、特別売却条件を指定し、競買人に対し保証として競買価格の十分の三に当る金額を執行吏に預けないときは、その競買を許さない旨の決定をなしたにもかゝわらず、あえて競売手続を進行して競落許可の決定をなしたことは違法である。

二、仮りに、前項の抗告理由が認められないものとしても、右特別売却条件に係る決定によれば、競売申立人及びその他本件不動産について債務名義を有する競買人と然らざる競買人とに対し、競買人としての保証の額を異にし、前者に対しては競買価格の十分の一、後者に対しては競買価格の十分の三の各保証を要求しているところ、このように、競買人に対して差別的取扱をなす決定は、憲法第十四条に明定するいわゆる法の下に平等という国民の基本的人権を侵害し、憲法に違反する無効な決定である。

しかるに、原裁判所は、右憲法に違反して無効な決定に基き手続を進行して、競落許可の決定をなしたことは、違法であると云わなければならない。

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